G. ガルシア=マルケス『戒厳令下チリ潜入記』.

 G. ガルシア=マルケス,後藤政子訳,『戒厳令下チリ潜入記』(岩波新書)を読みました.IFTR(国際演劇学会)でサンチャゴに行った際,自分がチリのクーデタと弾圧についてあまりに無知なことを恥ずかしく思い,とにかく,深田祐介『革命商人』上下(文春文庫),大石直紀『サンチャゴに降る雨』(光文社文庫),『ミッシング』(映画),そしてこの本をチェックして,自分のチリ旅行に一区切りつけようと思ったからです.『戒厳令下チリ潜入記』はノン・フィクション,『革命商人』と『ミッシング』は実話をもとにしたフィクション,『サンチャゴに降る雨』は「長編国際サスペンス」ですが,かなりリアリスティックに描かれています.

 1973年9月11日,世界で初めて民主的選挙で選出された社会主義政権アジェンデ大統領は,軍のクーデタにより,政権を奪われ,大統領官邸でありモネダ宮殿で最期をとげます.その後にピノチェトによる独裁が1990年まで続きます.大統領を退いた後もピノチェトは陸軍総司令官として影響力を持ち続けますが,非人道的弾圧でロンドンで逮捕され,チリで裁判を受けますが,病気を理由になおも生き延び,最期は2006年に心臓麻痺で亡くなります.彼の独裁の間,反独裁を唱えるグループや個人は,徹底的な弾圧を受けます.これを,反共路線をとるアメリカも容認したと言われ,その一連の弾圧の犠牲になった息子を探す映画が『ミッシング』です.

 『戒厳令下チリ潜入記』は,祖国を追放された映画監督ミゲル・リティンが,1985年ごろ,変装してサンティアゴに戻り,6週間にわたって反活動家と協力して映画を撮影するというものです.その記録をガルシア=マルケスがドキュメンタリーとして文章化したのがこの本で,リティンの入国から,様々な「冒険」を経て,母に会い帰国するまでの物語です.特にドラマティックな展開はありませんが,最初から最後まで緊張感が漲っています.潜伏生活の精神的ストレスがひしひしと伝わってくる名著だと思います.『サンチャゴに降る雨』は,サンチャゴに潜伏する映画人という点で,この本のモチーフをかなり参照しています.

 サンチャゴ滞在中に記憶博物館を訪れ,独裁政権下で行方不明になった人の写真や拷問に使われた電流通るベッドなどを見ました.その時はインパクトはありましたが,改めて事実を知ると,モネダ宮殿,マポーチョ川,サン・クリストバルの丘,バル・パライソの記憶が塗りなおされていくのを実感しました.風景に塗り込められた歴史が透けて見えてくるのです.私は,サンチャゴの第一印象は,排気ガスで煙る平凡な町だなということでした.大聖堂はとても印象的でしたが,それはむしろ,スペインによる南米征服と結び付けてのことで,チリの歴史によるものではありませんでした.今回は自分の無知を反省しました.写真は記憶博物館から出てきたところです.
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この記事へのコメント

El Bohemio
2014年09月14日 23:27
チリー軍事クーデター遭遇の思い出
http://gotanbohemio.blogspot.com/

この記事は当時現地チリーにいたときの
レポートです。
実際に見た光景と映画、小説家の書いた
クーデターの描写に随分差がありますね

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